山の自然学クラブ 事務局ブログ

事務局へ寄せられた、会の活動報告や、会員のみなさまのご活躍を発信します。絵日記担当:中村が更新しています。

山から始まる自然保護2020(総会および記念講演会)

山から始まる自然保護2020(総会および記念講演会)

知られざる北アルプスの雪の世界 -雪の壁から氷河まで

飯田肇さん(富山県立山カルデラ砂防博物館)講演会/山の自然学クラブ定時総会

2020年2月29日に定時総会および記念講演会「山から始まる自然保護2020」を行いました。今年は閏年で、貴重な2月29日がちょうど土曜日でしたので、この日にした、という経緯もあります。
今回の記念講演会は 富山県立山カルデラ砂防博物館の飯田肇さんにお越し頂き、最近のそして最新の日本の氷河について、ご講演をお願いしました。大蔵理事長からみなさんへのごあいさつの後、さっそくご講演を拝聴しました。

東京育ちの飯田さんですが、話の端々からは あふれる"富山・愛” と、山や自然に対する愛着を感じることができ、そのことも含めて、楽しくお話を伺うことができました。

飯田さんと大蔵理事長のあいさつ(2020年2月29日)

まず、話の導入は「雪」と「氷」についての詳しいご説明から。山へ行くもの、雪を知らなくてはなりませんが、なかなか奥が深いです。雪は美しく、そして多様性に富んでいます。また、すばらしい自然景観を形作る重要な構成要素でもあります。知っているつもりのことでも改めて整理して伺ってみると 原則的な性質や温度、自然現象や自然景観との関わりなど、わかりやすいお話で、よく理解できました。

立山黒部アルペンルートは日本でも有名ですが、アジア圏の方々にはたいへん人気があるそうで、特に近年は日本観光で訪れたい場所の上位を占めるようになっているそうです。確かに、毎年あれだけの雪が積もり、フレッシュな雪の壁を車で行って楽しめる、貴重(レア?)な場所です。

2002年から2007年の室堂平(標高2,450 mで平坦な場所)の積雪は6~9 mで、積雪の密度は450~500kg/立方m なので、冬期の降雪量は3,000 mmにもなり、降水量3,000 mmと合わせて年間6,000 mmもの年降水量であると推定されるそうです!この豊富な水量が富山平野を潤しているのですね。

最近、ホットな話題の多い日本の北アルプス北部にある氷河について、たくさんの写真や資料を見せながら説明をして下さいました。長年の調査の経験がある飯田さん、本当に話しきれないほどの体験をされていることと思います。
飯田さん達の調査により、2012年に初めて氷河が認められました。日本には氷河(重力により長期間にわたって連続して流動する雪氷体、定義されるそうです)がないとされてきましたが、飯田さん達は氷体の厚さと流動量を調べて、いくつかの雪渓には氷河の特徴があることを発見されました。剣岳の三ノ窓、小窓雪渓(氷河)、立山の御前沢雪渓(氷河)が氷河であることが認められ、極東地域の氷河の南限位置が大きく南下しました。
その後、剣岳の池ノ谷雪渓、立山の内蔵助雪渓、鹿島槍ヶ岳のカクネ沢雪渓が2018年に氷河であることがわかりました。

知られざる北アルプスの雪の世界 -雪の壁から氷河まで-(飯田肇さん)資料の一部

最新のGPS測量による調査の結果により、内蔵助雪渓が氷河であると証明できたそうです。以前、調査で底に入ったときの写真や映像を見ながら調査の様子を振り返ってお話しされました。
「内蔵助雪渓が氷河となって一番嬉しいのは、一般の登山者が行くことができる(一般的な登山道の近くに現存する)ことです。氷河の見学会やガイドツアーが実施されて多くの登山者に日本の氷河を体感してもらいたいと思います。」とおっしゃっていました。

さらに最新の発見として、2019年の秋に唐松沢雪渓も氷河であることが確認されたそうです! この発見により、日本に現存する氷河は7つとなったそうです。
これら北アルプスの氷河は、地球上でもっとも温暖な地域に存在する氷河であるとも言えるそうです。北アルプス北部の降雪量が世界有数であることの一つの証しでもあるかもしれません。これからの詳しい研究の進展が楽しみです。


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講演会の終了後に、定時総会を執り行いました。2020年の活動が始まっていますが、各担当の理事から活動内容や予定をご紹介いただきました。今年も楽しい行事や活動を継続していきたいと思います。

飯田さん、楽しいお話をありがとうございました。
参加して下さった会員のみなさん、ありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いいたします。


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新型コロナウイルスの感染が広がっており、今回の講演会等も延期してはとの意見もありましたが、開催できてよかったと思っています。山や自然を相手に行動する当会のメンバーとしては、各自の責任で行動判断するべきです。もちろん そのときの状況に応じて、できる対策・対応を考えてしっかりやることは大切です。
自然災害やアクシデントの発生時、登山パーティでも、組織等においても、対応を決める立場にある人間は、根拠や経験に基づいた状況判断と、専門的な見地を優先的に、一番適応的だと思われる対応方法とその順番を決めていくようにしていかなくてはなりません。あいまいな判断を持ち出して人の不安をあおるようなことをすると、正しい判断を阻んでしまう可能性があります。山や自然の中で 判断をして行動できる力をしっかり身につけていくことが、これからも 会としてまだまだやらなくてはならない、できることでもありそうだな と感じています。