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山の自然学クラブ 事務局ブログ

事務局へ寄せられた、会の活動報告や、会員のみなさまのご活躍を発信します。絵日記担当:中村が更新しています。

2016年初_大蔵喜福理事長メッセージ

理事長メッセージ

2015年会報・はじめに ネパール大地震と山の日

山から始まる自然保護(当会年会報)15号 2016年2月21日発行より
大蔵理事長 巻頭言「はじめに」
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 会報14号に“2016年から8月11日が国民の祝日「山の日」となります。・・・・・中略・・・私たち「山の自然学クラブ」もその理念に則り、何ができるのか、何ならやってみたいのか、会の活動のひとつとして企画することは価値のあることと思います。自然に親しむ中で、自然の保全・保護の重要性を認識してもらう啓蒙活動が我々“山の自然学クラブ”の大きな役割ですが、「山の日」をアピールだけではなく、どのように活用できるかを会員の皆様同士で知恵を絞って考えることも、会の新しい発展に繋がることと思います。”と始めた巻頭言に、当クラブでも一体何ができるのかそれぞれに考えようと宿題にしておいた。
 山の日制定記念と銘打つイベントの一つとして、日本山岳会多摩支部主催の講演会が師走の14日に立川で開かれた。その講師を頼まれていたので、幾つかの提案をした。その一つに子ども達の自然に対する危機管理能力を問題にした。『ある危機感と未来へのメッセージ』として丸7年前、ここに記したことがある。ヒトづくりとは、自然とどう接していくかということが命題であるということと共に、現代の子ども達のデジタル化、言い換えると非現実の世界と現実との境にスイッチがなくなってきている現状を上げた。
 ある子どもがキャンプの最中に「カブトムシが動かないよ、電池切れかな?電池くださーい」と担当の指導員に伝えた。指導員は、生き物と分からせるため?に「電池入れるところあればあげるよ」。返事がないので行ってみると、その子は頭、胴体、手足、カブトムシのカラダをバラバラに切り刻んで電池のありかを探していたというのだ。ぞっとする話だ。まだある。ある夏のキャンプでテント内の事。夕方冷え込んできたので、カゼをひかないように、上着を着て温かくするように指導員が伝えていると、ある子どもが「冷房が効きすぎている、スイッチ切ってよ」と言ったそうだ。
 すべて大人の責任で、自然のなんたるかを体験させていない証拠である。こんなにひどい状況だとは、開いた口がふさがらないのである。ヒトと自然がこれほどまでに乖離しているとは・・・。
 子どもの危機管理能力を作り上げていくには川、野山など大自然に遊ぶことで身につけるしかない。川なら水に逆らって歩く、泳ぐ、へずる、山ならラフな道を安定して歩ける、岩にへばりついても登る。いろんな体系で学べる。子ども達に今もっとも必要なのは、自然体験の量である。“命”をどう守るのかもわかる。この命ということを一番思うのが2011年3・11東日本大震災の大津波に飲み込まれた多くの子ども達の話である。大人の責任で飲み込まれてしまったある小学校の悲劇もあるが、山に逃げるという考えと、登れないような体躯的能力の欠陥を指摘するヒトもいる。

 地震の強度ははるかに異なるが、2015年4月25日ネパールを大地震が襲った。その前と後に偶然、同じエベレスト街道のトレッキングにいく機会に恵まれた。ルクラからナムチェ・バザール、そしてシェルパ族のふるさとクムジュン、クンデの村を周った。使用前・使用後をこの目で見た。5月12日にも近くで余震が起こった。2度の大地震で街道筋の古い建物をはじめこの地方で約300軒が全半壊の被害を被った。特に古く崩れやすい土壁や日干レンガ、石つくりの壁が崩れた。山肌につけられた街道も何箇所も崩れ、爪あとは生々しい。裏山が崩れて家の中に大岩が飛び込んだままの家もあった。村が全滅するほどの被害はターメの村で7人が亡くなったそうだが、クムジュンとクンデの村では、両村で千人の人々が暮らし、150軒に及ぶ家が全半壊したにもかかわらず子どもも含め誰も亡くなっていない。この地方一帯ではターメ以外では無事だった。平素が自然の中での営みのネパールの村の子ども達と、自然乖離が進む日本の子ども達と単純な比較は難しいが、いずれにせよ自然界の掟、自己責任の上に立った危機管理能力というスキルは、ネパールの子どもたちのほうがはるかに強いのに異論は無いだろう。このスキルを“山登り"でつくり上げようというのが私の第一の提案。小学校でも登山という授業をやってほしいものだ。
 つぎに問題にしたのが次代の子ども達にバトンを渡すべき大人の登山スキル。今、山での遭難件数がこの10年うなぎのぼり、ここ数年は2,500件を越える。そのうちの約8割が中高年である。中高年とくくるが実際は60代の団塊の世代である。忍び寄る高齢に自らのスキルに大きな綻びが生じているのに気が付かない。あるいは高齢になってからのビギナーでもともとスキルがない。いずれにしてもその対策は難しい。(この年代がもし山に来なかったら遭難のほとんどは無くなるが、登山人口も激減することになる。)しかし、登山のスキルを上げるためにひとついえることは、踏み込んだ本格的な登山を志すことだ。命のかかるような登山を試みればスキルはおのずと上がる。また、そういったスキルを学び切磋琢磨する場、市井の山岳会を復活させることも最重要な問題となる。仲間が増えればモチベーションも上がり、信頼と協力で、海外登山も可能、自らの手での救助という遭難対策も立てられる。登山者の受け皿として今後の命題である。
 山の日は「登山と安全について考えよう」ではなく、登れる山より『登りたい山に行こう』で、山に登ってスキルを磨くという基本的なことをしっかりやればいいのである。
 本年も会員皆さまのご協力を切にお願い致します。