山の自然学クラブ 事務局ブログ

事務局へ寄せられた、会の活動報告や、会員のみなさまのご活躍を発信します。絵日記担当:中村が更新しています。

2019年初_大蔵喜福理事長メッセージ

2018年会報・はじめに わざわいと自然学

2018年初_大蔵喜福理事長メッセージ
山から始まる自然保護(当会年会報)18号 2019年5月27日発行より

大蔵喜福理事長 巻頭言

 2018年の漢字は『災』、第24回のこのイベントで2度選ばれた文字である。わが国は神代から自然災害多い国として世界でも有数。火山に始まり地震津波、豪雨、台風、地球温暖化でこの夏、気温40℃超えが次々と・・・近年の桁違いな猛暑は温暖化の長期化を予想させるが、いずれにせよ局地的豪雨や台風の襲来を誘発する海水温上昇、高温度を維持する高気圧がその要因である。恵みの雨ならずの暴雨は、山、沢の大規模土砂崩れ、河川堤防の決壊などの水害、ダム放水の人為的水害、傾斜地の崩壊・・・西日本一帯に多くの災害を起こした。さらに台風21号は長期広範囲に及ぶ甚大な被害を起こし、激甚災害に指定されるも、国や自治体の対策は後手に回っている。大阪や北海道の地震、新しく爆裂した活火山の数々、こんなにも災いがあったのだと再認識、というより私たちの住まう国は大変なところなんだと落胆に近い今更の感慨・・・・。
 その災いに勝つために、大自然の猛威に挑戦、コツコツと国造りに励み、歴史を刻んできた先人には悪いが、どこまで来ても、完全に勝つことはできないでいる。正確に言うと人の病苦と同じように目先の対処療法、困難や病魔にたとえうち勝ったとしても、次なる大辛苦が襲ってくる。大自然に戦いを挑むのも人としての使命、病人を救う医者と自然に挑む学者や技術者は、ヒトの快適と長生きの為に尽くしているといえるのだが、天の許しもなく勝手に、躰を切り刻み、自然を作り変えているにすぎないとも言えるのだ。
 わが先祖やアジアの多くの民族は、自然とヒトとはその一体の中にあって関係がどうとか、付き合い方がどうとかの考えは元々無い。大自然そのものが父であり母であり家族であり、動物・植物・昆虫・鳥・森林‥‥、命の糧や安全もその中にあった。わが国でいえば人類が移り住んで数万年、時代は石から土、縄文の世に数十万人が住まわっていても、自然災害での危険はほとんど回避していたであろう証拠はある。それは分母がいかに小さくても、財産や家が粗末なものであろうが、自然の営みの中でヒトが住んでよいところとダメなところを知っていたということだろう。
 時代は下って、ヒトが必要とした宗教の中に、仏教の四苦“生、老、病、死”、さらに愛別離、怨憎会、求不得、五陰盛会の四苦を重ねて四苦八苦。でも自然からの辛苦はない。あらゆる苦しみはすべてヒトとのかかわりだけ。
 私たち「山の自然学クラブ」は、自然を深く学び、ヒトの生きる糧、そして美しく大切な大自然を壊すことなく後世に遺し繋ぐ使命がある。さらに作り変えてしまった自然を再生・克復するも同義としての使命であろう。森造りや植林作業、保全の仕事は膨大な時間と労働力、ヒトの資産をあてに無限の戦いは続く。ヒトの都合と快適さだけを求めるヒトの責任といえる。

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3月初旬に噴火した新燃岳はレベル3、火口 周辺の2 km四方が入山禁止となっている。

 夏、戸隠山に登った時、戸隠地質化石博物館の田辺智隆館長にお話を聞いた。約2千万年前、戸隠周辺はフォッサ・マグナの陥没により海であった。戸隠山は500万年前の海底火山噴火で出来上がり、200万年前から隆起して約2,000 mの山になった。その生い立ちを、発見された貝類やダイカイギュウ(ジュゴンの先祖)、クジラなど多くの海洋生物の化石から解き明かした。大地は生きている「山は動く、武田信玄は嘘っぱちだ」という比喩と共にその面白い語り口に引き込まれた。溶岩(凝灰角礫岩)で形成された鋸状の険しい戸隠山は、その山容から伝説の舞台から信仰の対象になった一面も持つが、その大自然の多様な歴史に引き込まれた。千曲川の川底が山の稜線になったり、長野善光寺盆地がどう沈んだか、火山の噴火や地震で幾度も隆起、陥没を繰り返した。大地の変化をスローモーションで見たような思いだった。彼は、教育者で地質学者の保科百助(1867~1911)の名言“地質学はすべての学問の土台である”を座右の銘にしていると紹介してくれた。なるほど!と感嘆した・・・・・。
 翌日、田辺さんの案内で鬼女紅葉伝説の荒倉山あたりを散策した。その時、林道の展望地で飯縄山より飯綱高原、そして大頭山の丘陵地に広がる裾花集落を垣間見た。彼は「ヒトは住めるところを決めるにはまず湧き水、次に日当たりのよい農耕地です。災害が起きず安定して生きられるところをしっかり見極めて暮らしてきたのです。自然を学ぶことの大切さがわかるでしょう。」河川の堤防など全くなかった時代には、雨が降れば洪水は当たり前だったろう。ヒトの生活圏?を脅かす被害は今や甚大となる。家、道路、橋、電柱、線路、田畑……電気、水道などインフラ、ヒトが快適に住まうための文明が、ことごとく破壊される。元をただせば人為がそうさせている。誰だって豪雨で土砂崩れが来るとわかっている場所には棲まないだろうが、大自然を知らない。ヒトとの乖離がそうさせる。人智レベルでは大自然に勝つことはできない。ヒトは“水と電気だけあれば”と、住んではいけないところを住めるようにしているだけであると認識すべきである。

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戸隠岳一番の難所、蟻の塔渡り。 西側は150 mの絶壁。

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戸隠山は今でも隆起のスピードが速い。 1万年で10 m。

※人をヒトと表記した意味は自然界のなかでは動物と同じということ。

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